グッチ(GUCCI)の2025年春夏ショーのフィナーレ。マリーナ・フィオルダリーゾの1986年のヒット曲「Non Voglio Mica La Luna」が流れ出すとモデルたちが揃ってランウェイに現れ、観客は頭でリズムを取りながら一緒に歌い始めた。サバト・デ・サルノのメゾンでの1年目は決して楽なことばかりではなかった。しかし、2025年春夏は明るく前向きなコレクションにするべく彼が重ねてきた努力は、この日きちんと報われた。
コレクション制作にあたって、彼がまず最初に行ったのは会場選びだ。今季、デ・サルノは6月にメンズショーを開催したミラノ・トリエンナーレ・デザイン・ミュージアムを再び舞台に選び、円形式の場内を連続するいくつかの空間に仕切った。白から始まる空間は、ランウェイを進むにつれて徐々にイエローからオレンジ、オレンジからメゾンのシグネチャーレッド“ロッソ アンコーラ”に染まっていき、沈みゆく夕日を彷彿とさせた。ショーの何日か前に行われたプレビューで、デ・サルノは8月に夫と両親とフォルメンテラ島で過ごした休暇について愛おしそうに語った。今回のセットは、そのとき感じた常夏気分をとらえようとしている。
ミューズはジャクリーン・ケネディ・オナシス。かつてはグッチのクライアントであり、今なお世界中にスタイルアイコンとして名を馳せている彼女は、長年にわたり数え切れないほどのデザイナーたちのインスピレーションになってきた。「アーカイブでリサーチをしていたとき、彼女のスタイルを“カジュアル高貴”として表している資料を見つけたんです。その言葉は制作期間中、頭を離れませんでした」とデ・サルノは説明した。
ケネディ家は今、まさに時の人々として返り咲いている。つい先日、人気クリエイターのライアン・マーフィーがジョン・F・ケネディ・ジュニアとキャロリン・べセット=ケネディを描いたドラマをプロデュースしていることを発表。メゾンは偶然にも、同じ一家の一員をミューズにしたのだ。
就任から1年でデ・サルノが開いた突破口
ウールのボンバージャケットに腰履きのパンツにスニーカーというオープニングルックを見ただけでは、ジャッキー・ケネディがインスピレーションであることはわからない。しかしショーが進むにつれて、アーカイブプリントを復刻したヘッドスカーフや大ぶりなサングラスが登場し、彼女がカプリ島で見せたバカンススタイルをヒントにしていることが見て取れる。
目を凝らさないとわからない繊細なフローラル柄の蛍光グリーンのラフィア織りコート、グッチを着たエリザベス2世にインスパイアされたというプリントのセパレーツとつば広ハットなど、ジャッキーの1960年代のトラベルスタイルを思わせるルックも打ち出された。セレブたちがレッドカーペットで纏いそうな輝くスパンコールのスリーブレスドレスも披露され、トム・フォード期に発表された1996-97年秋冬コレクションのアイコニックな白いジャージードレスも、デ・サルノは深色で再解釈。
デ・サルノがジャージードレスに取り入れたゴールドのバンブー型アームバンドやチョーカーは、今季グッチが最も力を入れている「バンブー」バッグとリンクするモチーフだ。ショーには日本人アーティストたちの手によってカスタマイズされたヴィンテージ版がいくつか披露され、「ホースビット」があしらわれたバケツ型ショルダーバッグを提げているモデルも多かった。メゾンのシグネチャーである「ホースビット」はほかにもおなじみのローファーを進化させたフラットタイプのブーツにもワンポイントとして輝く。
クライマックスはショーの終盤にランウェイに送り出された、現代のジェット族を想起させる5つのルック。タンクトップとボーイッシュなデニムの上から床に引きずるほどのオーバサイズなコートを羽織ったモデルたちは、デ・サルノがこれまで実現しようとしてきたもののなかなか届かなかった、幻惑的なカジュアルさを完璧に醸し出していた。それは彼が今回開いた、最大の突破口だ。
未来はいつも未知のものだが、フィオルダリーゾの曲に合わせて歌って踊るゲストたちはきっと、新たにファンがついたデ・サルノの未来は明るく、さらなる成功に向かっていると予兆している。
Text: Nicole Phelps Adaptation: Anzu Kawano
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